私の彼氏になってください
何秒経ったんだろう?
すごく長く感じた時間の後、まだ頭を下げたままの私の視界が少しだけ暗くなった。
そう、倉本が私に近付いて来たんだ。
「まあ…、頭上げろって。てか、こーゆーのってお願いするもんなの?」
「え?」
私がゆっくりと頭を上げると、倉本の静かな笑みが見えた。
ウザいオーラが出てない…???
「馬場の気持ちには薄々気付いてたよ。まあ…ホントに俺で良かったらいーんじゃね?」
「え?それって……」
「馬場と付き合う。彼氏になる。…それでいーんだろ?」
「まっ、マジでいーの?」
「嫌なら別にいいけど」
「嫌じゃない!むしろ嬉しい!!やった…!勇気出した甲斐があった〜」
「なんだ、それ。…じゃあ、帰るか」
そう言って、倉本は手袋がはめられた私の右手をそっと掴んだ。
そしてさっきとは逆方向に歩を進め始めた。
「え?ちょっと…、そっちは倉本の家じゃないんじゃ…?」
「馬場の家まで送る。付き合うって…そういうことなんだろ?」
「いーの?私の家…そこそこ遠いよ?」
「ついでに馬場の家どこか知りたいし」
ああ〜、何で私、手袋はめちゃったんだろ?
どーせ手をつなぐなら、絶対素手が良かったんだけど。
でも…、倉本の温かさ、手袋を通じて伝わってくるよ。
今までの素っ気ない感じとか、全部飛んで行ったような倉本の温かさが…。