片思い経由、恋愛行き


「兄ちゃん、降りなくていいのか?追いかけないのか?」


「…え?」



バスを停めたままのおじさんがきいてきた。



その言葉に、ふと窓の外を見る。




……そういうことか。




停留所の看板の横には、達也の姿。



達也は平日は夜勤。



これから仕事に行くために、ここで華咲海岸行きの線のバスに乗り換える。



それを知った成海さんは、達也に会うためにここで降りるんだ。



それにここは、坂下から歩いたってそんなに遠い距離じゃない。



きっと朝も、帰ってくる達也に会うために、少し早く家を出てバス停1つ分歩いているのかもしれない。



そうだとしたら、この数日間会えなかった理由だって考えられる。





「…うん、いい」



そう言って、もう1ヶ所分バスを走らせてもらう。



今回も何も言わずに、おじさんは俺を坂下停留所まで運んでくれた。
< 163 / 290 >

この作品をシェア

pagetop