片思い経由、恋愛行き
「兄ちゃん、降りなくていいのか?追いかけないのか?」
「…え?」
バスを停めたままのおじさんがきいてきた。
その言葉に、ふと窓の外を見る。
……そういうことか。
停留所の看板の横には、達也の姿。
達也は平日は夜勤。
これから仕事に行くために、ここで華咲海岸行きの線のバスに乗り換える。
それを知った成海さんは、達也に会うためにここで降りるんだ。
それにここは、坂下から歩いたってそんなに遠い距離じゃない。
きっと朝も、帰ってくる達也に会うために、少し早く家を出てバス停1つ分歩いているのかもしれない。
そうだとしたら、この数日間会えなかった理由だって考えられる。
「…うん、いい」
そう言って、もう1ヶ所分バスを走らせてもらう。
今回も何も言わずに、おじさんは俺を坂下停留所まで運んでくれた。