片思い経由、恋愛行き


最後の時間を惜しむように、たわいもない話をたくさんした。



学校のこととか、家族のこととか、これからのこととか。



今までほとんど毎日いろんな会話をしてきたはずなのに、まだまだ話し足りない気がする。




だけどこの時間もあと少しで終わり。



次に停まるのは、坂下停留所。



ほんの20分足らずは、やっぱり短い。




「あ、そうだ」



何かを思い出しておじさんが言った。



「小桜高校の卒業式の日、あの女の子が言ってたよ」


「え?」



曲がり角の前の赤信号で止まり、俺の方に振り返る。



目尻のシワを深めて優しい笑顔を俺に向け、はっきりとこう言った。









「“遠く離れてしまっても、いつかまた瑞樹くんに会いたい。”……ってな」

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