片思い経由、恋愛行き


ゆっくりとスピードを落としていくバス。



丁寧にかけられたブレーキで、あまり揺れることなく停車した。



“坂下”の文字が大きく見える。



終わってしまった時間に寂しく思う反面、これから始まる時間に少し胸が高鳴る。





座っていた座席をそっと立ち、出口まで歩いた。



「元気でな」



笑顔でそう言ってくれたおじさんと向かい合う。



「うん、おじさんも。また会えたらいいね」



俺も笑顔で答えた。




すっと伸びてきた手。



何十年もハンドルを握ってきたその分厚い手と、しっかりと握手を交わした。





にっこりと笑い、晴れた気持ちでステップを降りる。



「自分の気持ちを大切にな。頑張れよ」



最後にそう声をかけられて、俺はおじさんと別れた。
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