天使がくれたもの(全編公開にします)
…キシッ…

勇心の体重で、音をたてる床。

手を握ったまま、勇心を顔を近づけてくる。

だんだんと近くなる彼のかげにおおわれ…舞はゴクンとツバをのんだ。

何も言わず近づく彼に、彼女も合わせるようにそっと瞳を閉じた。

…2人の唇がゆっくり重なろうとしたとき、舞の頭の中で…あの夏の…駐車場での出来事がよみがえる。


「…ごめんっ」


動きが止まる彼に、舞はうつむいたまま…小さな声で謝った。


「うん…俺もごめん」


そう言って手を離し、むこうを向く彼を、舞は切ない顔で見つめた。

息のつまるような沈黙が、2人を包み込んでいく。

しばらくしてから、純子と伸哉は部屋に戻ってきた。何もなかったように、普通に接する2人。

だが、気まずい空気が…2人の中でひそかに流れている。

一瞬、思い浮かんだ…カグとのキス。

…舞は息がつまる思いで、その時を過ごしていた。
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