ラブ&DEATH
最後の日の出逢い
後悔は何もない。だから、今日ここで自分の人生に終止符を打つ事に決めた。遺書も書いた。ここは、あたしにとって最悪な人生が始まったある意味、大事な場所だった。
高い屋上には、冬の冷たい風が吹き抜け空は、真っ青だ。さぁ、おいでって空が出迎えてくれているような錯覚さえ覚えてしまう。バッグから遺書を取り出して靴で押さえると躊躇いもなくフェンスに手をかけた。冬の風で冷えた鉄の感触とガシャンと硬質な音に自分が、しようとしている事が近づいて来ているような気がする。
ビルの屋上から見下ろす景色はミニチュアみたいで走る車も小さくて、それを見ているあたしは、ゴジラみたいに大きくなったようで笑えた。
呼吸を深く吸い込んで最後のフェンスをよじ登ろうと足を上げようとした途切れ…―
「…死ぬの~?」
誰もいなかったはずなのに背後から緩~い力のない男の声が聞こえた。
慌てて足を下げ後ろを振り返る。すると、そこには真っ黒なパーカーを深くかぶった不審な男がこっちを見ていた。
「……そのつもりだからこうやって登ってるんじゃない!!止めても無駄だからあっちに行ってもらえますか!?」
止めてもらうつもりもないし、やめるつもりもない。
「やめときなよ~?知ってる?飛び降りってさぁ…高さがあるから飛び降りた時は気を失うんだって~んでコンクリートに叩きつけられた痛みとショックで目が覚めるんだけど骨もバキバキだかさ頭からは何か出てるから死ぬ時にすっげぇ苦しいらしいよ?せめと首吊る方がマシなんじゃないかな~?」
………何こいつ。何で飛び降り自殺後の話なんて知ってんのよ?
首吊るってあれだって中身飛び出して汚ないって聞いたし。
「やめときなって…ね?」
そう諭すように言いながら男が、徐々に距離を縮めているのに気づいた。
「死にたいのよ!!邪魔しないでよ!!」
「そっちは死にたいのかも知れないけどさ…とりあえず思いつきの命の放棄は俺らもちょっと都合悪いんだよね~…」
思いつき!?ますますわからない。男から逃げるようにフェンスをよじ登って行くあたしとどんどん近づいて来る男。その時…―
メキッと嫌な音がして錆ていた場所からあたしを乗せたまま折れてしまった。
―…うそ、あたしほんとに死んじゃうんだ?
スローモーションで景色が流れて地面から身体が離れて宙に放り出された。
まあ、いいや…死ぬつもりだったからこれもまた運命。
そう、覚悟して目を閉じた。
すると、今度は―…
「ほっときゃいいのに…仕事増やすんじゃねぇよ」
どこからともなくさっきとは違う声が聞こえて、手首に温もりと激痛が走った。
そして、男二人がかりで屋上へ引き上げられてしまった。