Deja Vu【SS】



左手の薬指。そこにぴったりはまった、上品な指輪。
それがどんな意味を持つのか、覚えているのだ。

それに、私の仕事も、私が一人暮らしだというのも、すべて“過去形”で聞かされた。
仕事をやめて、家も引き払っているということなのだろう。
つまり、記憶を無くす前から、私はこの家の住人になっていたということだ。


私は自分の名字を知らない。
病院での手続きは、私では不備があるかもしれないと、全て彼が代わりにやってくれた。
だから、“ユリ”という名前がどんな字なのかもわからない。
この、彼の部屋の表札には、『原田』という名前が書かれていた。



たぶん、私の名前は、原田ユリだ。




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