桜雪
私は少し意外に思った。
この穏やかな婦人に、そんな過去があるとは思わなかった。
 
「あの時、私はやっぱりこの並木道を歩いていたんです。季節も同じ春でした。今日のように空は限りなく蒼く、その下には満開の桜たち…。
そして、あの人に出会ったんです。狩野紘一に。
 
彼は絵描きでした。そこそこに名前は売れているようでした。狩野はそこで桜の絵を描いていたんです」
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