桜雪
「だから、自然と気持ちは彼の方へ傾いていました。私も彼と一緒なら死ぬのは怖くないと思ったから。それに、彼が今必要としているのは、私だったからです。あの瞳の色を思い出して、私は彼のところへ行く決心をしました。
彼に電話で決心がついた、と言ったら安堵した声で『ありがとう』と言いました」
 
婦人の話はまたそこで途切れ、ただ静かに桜が散り急ぐ様を眺めていた。
私はそっと尋ねた。
 
「でも、あなたは彼と一緒に死ねなかった…?」
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