桜雪
あれは幻だろうか?
桜の木が見せる幻覚にすぎないのだろうか?
 
私はただ彼女を見つめていることしか出来なかった。
既に終わってしまった桜の花の中に佇む彼女の姿を。 
 
坂井君枝は、空を仰ぐようにして木を見上げている。
私はその時、彼女がそこにいる理由が分かった。
彼女は死んでもなお、自分が愛し、そして見殺しにしてしまった「彼」のために“贖罪の儀式”を行っているのだ。
 
彼女は自分の罪を、命が果てた後も許すことが出来ないのだろう。
 
だから、今もなお、「彼」が許してくれる日を待ち焦がれながらあの木を訪れるのだろう。
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