桜雪
私は彼女を見つめたまま、その場に立ち尽くしていた。
不思議と恐怖という感情は一切なかった。
 
あるのはただ、切ないばかりの哀しみだけだった。
そう、色で例えるならば、今、丁度彼女の背後で舞っている桜のような。
 
ふと、彼女が私の方を向いた。
静かに、ゆっくりと。
 
私の姿に気付くと、彼女は少し驚いたような顔をした。
私がいることに気付かなかったのか、自分の姿を私が見えていることに驚いているのかは、どちらとも区別がつかなかった。
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