桜雪
彼女は、私に向かって軽く会釈すると、背後の桜を引き連れて静かに、そっと消えていった。
 
まだ微かに淡い桜色の余韻が残っているような気がした。
 
掌に視線を落とした。
 
そこには、さっき拾い上げた桜の花びらがひとひら、儚げに残っていた。
しかし、次の瞬間には、花びらも彼女の後を追うようにして私の掌から消えていった。
 
まるで雪のように。
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