ふたり。-Triangle Love の果てに


午後7時にもなると客足も増えて、シトラスは忙しくなる。


けれどゆり子さんは「真琴ちゃん、あがってくれていいわよ」と言ってくれる。


これからの私には「本業」があるから。


申し訳ないと思いながら、7時過ぎには店を出た。


そこから10分ほどの距離に、私の職場「Bar Yesterday」がある。


12月の風は冷たいのに、クリスマスをひかえているせいか本通りは活気があって熱い。


クラブも居酒屋もここに集う飲食店は、どこもかしこもクリスマスを意識した装飾。


私は店の裏口から入ると、まずロッカー室に向かった。


まだ暖房の効いていない部屋での着替えは鳥肌がたつ。


でもそれもすぐにおさまる。


パリッとアイロンがけしたカッターシャツに、赤い蝶ネクタイ。


黒いベストに黒いタイトミニ。


そして黒いピンヒールを履けば、自然と背筋が伸びる。


次は髪を後ろで束ねたら、これでもかというくらいにヘアスプレーをふりまく。


メイクも念入りに施す。


これは私にとっての「仮面」。


最後の仕上げには真っ赤な口紅。


こうしてどんなことにも動じない「片桐真琴」ができあがる。


そう、私の職業


それはバーテンダー。


疲れた人たちをお酒でもてなす。


時には恋のキューピットにもなることもある。

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