ふたり。-Triangle Love の果てに
第3章―Secret Love
私はYesterdayを辞めなかった。
逃げ出したくなかった。
時間がかかってもいい、目の前の現実を受け入れる努力をしていこう。
赤い口紅ももういらない。
「仮面」も「鎧」もいらない。
彼がいてくれたら、それだけで強くなれる気がする。
お客さまからは「なんか雰囲気が柔らかくなったね」なんて言われる。
それはメイクだけの問題じゃないと思う。
女だからなめられちゃいけない、そんな気負いもなくなって自然にふるまえるようになったからかもしれない。
もう「強い自分」を装うのはやめたの。
この心が折れそうになった時は、受け止めてくれる人がいるのだから。
私は、私本来の姿のままでこの世の中を生きてゆく。
そう決心させてくれたのは、まぎれもなく相原泰輔、その人に他ならない。
ひとりの人を愛するだけで、こんなにも自分を変えることができるなんて…
けれど、当の彼はYesterdayにはあまり顔を見せなくなった。
代わりにお兄ちゃんが心配して、お酒が飲めないくせに週に2回はYesterdayにやってくる。
でも照れくさいのか、私のカウンターには座らない。
もっぱらマスターか恵美さんのところ。
人当たりがいい性格なので、他のお客さまにからまれていることも多い。
バイト先の喫茶店「シトラス」に来る回数も合わせれば、ほとんど毎日お兄ちゃんは私の職場にやってくることになる。
でも前みたいに「来ないで」とは言えない。
だって私のためにこうやって弱いお酒を飲みに来てくれるんだもの。
こういう時は、泰兄が店に来なくてよかった、って思う。
だって私たち…
付き合ってるから。
お兄ちゃんにはまだ報告していない。
きっかけがないというか、なんて切り出していいのかわからないというか…
とにかく、何だか言いづらい。
だって今までお兄ちゃんと「恋の話」をしたことなんて生まれてから一度もないんだもの。