ふたり。-Triangle Love の果てに

何杯かのお酒をお客さまに出すと、私はケンちゃんにもらったチューリップを水を張った背の高いグラスに挿した。


少しうつむいたようなチューリップ。


ケンちゃんみたい。


話すときはいつも目を合わさずに、伏せがちで…


淡泊すぎるけれど、いつも花を大切に扱っていることを私は知っている。


改めて、自分は幸せ者だとつくづく思う。


お兄ちゃん、ゆり子さん、マスター、恵美さん、ここにいるお客さま、ケンちゃん。


私のために祝ってくれて、本当に幸せ。


そして泰兄。


私はそんなみんなの思いをかみしめながら、23歳を迎えることができた。


午前1時を過ぎた頃だった。


地上1階にある店の出入り口が、やけに騒がしい。


バンッと乱暴に扉が開いたかと思うと強面の男が3人、何かをわめきながら入ってきた。


そのうちの一人に見覚えがあった。


いつか店で大暴れをして、圭条会の組員に取り押さえられていた男。


マスターや恵美さんの顔が一瞬にして強ばる。


「おうおう、何だよ。今日はやけに賑やかじゃねぇか」


泰兄が私に贈ってくれた花束を見た一人が言った。


「何のご用でしょう」と血相を変えたマスターが、螺旋階段まで駆け寄る。


店内の客は彼らに視線を合わせないようにうつむき、静かにグラスを口に運ぶ。


「この間はどうも。また飲みに来たんだよ、飲みに。いいだろ?金はちゃんと払うんだからよ」


「しかし、あいにく今夜は満席でして」


「あ?じゃあ、あの辺の客をさっさと帰らせろよ。それとも須賀一家の人間に出す酒はないって言うのか?え?」


須賀一家と聞いて店内がしんと静まり返り、お客さまはそそくさと帰り支度を始めた。


なんて無茶無茶なの。


私は悔しさのあまり、手を握りしめた。


恵美さんは一人一人に「申し訳ございません」と頭をさげてゆく。


「どうかお帰りください」


マスターの言葉に、男達はカウンターにあったグラスを全てなぎ倒した。


すさまじい音と、ガラスの破片。


悲鳴と怒号が飛び交う中、恵美さんが子機を片手に奥へ入ってゆくのが見えた。


きっと圭条会の人間に電話してるんだ。


仕方ないのよ、お店を守らなきゃいけないんだから。


自分に言い聞かせながら、私は悔しさと怒りのあまり、めまいがしてしゃがみこんだ。


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