ふたり。-Triangle Love の果てに
~片桐勇作~
明け方、玄関のドアを強く閉める音で目が覚めた。
…真琴?
いつもはまだ眠っている俺に気を遣って、極力音を立てないようにしてくれるのに、今日に限っては違っていた。
バタバタと部屋に入っていく真琴。
そしてしばらくすると、くぐもった泣き声が隣の部屋からかすかに聞こえてきた。
俺は身体を起こした。
どうしたんだろう…
また圭条会や須賀一家のやつらが店に来たのか?
それとも…
それとも泰輔兄さんと何かあったのか?
居ても立ってもいられずベッドから出たものの、声を殺して泣く妹のことを思うと、今声をかけるのはいい考えだとは思えなかった。
仕方なく俺は壁にもたれると、妹の漏れ聞こえてくる嗚咽に固く目を閉じるしかなかった。
どうしたんだよ…
今日はおまえの誕生日だろ?
なんで泣くんだよ。
朝起きたら渡そうと思っていたプレゼント。
分厚いカーテンを突き通す朝日の中で、ぼんやりとその姿を浮かび上がらせた。
俺が出勤する時間になってようやく、真琴の部屋のドアが開いた。
誕生日おめでとう、なんて到底言えないほど疲れ切ったその顔。
「ごめんね、お兄ちゃん。朝ご飯用意できなくて。ちょっと、体調悪くて」
目が腫れていた。
でも気付かないふりをする。
「大丈夫、気にしなくていいよ。いつまでもおまえにばかり頼ってちゃいけないし。そうだろ?」
もうすぐ別々に暮らすんだからさ、という言葉を飲み込む。
「…そうね」
「無理するんじゃないよ。どうしてもダメなら今夜は仕事は休むんだよ」
「…うん、ありがと」
「じゃあ、行ってくるから。何かあったら電話して」
靴を履く俺の後ろに立った真琴。
「お兄ちゃん」
「んー?」
「私、泰兄とは別れたの」
手が止まる。
なんとなく予想はしていたことだったけれど…
でもどんな顔で振り向けばいい?
そして泰輔兄さんに対して、ふつふつと怒りが込みあげてくる。
「…どうして」
背を向けたまま、かすれてしまった声で俺は訊いた。
「やっぱり泰兄とは、住む世界が違ったの」
「泰輔兄さんがそう言ったのか」
「ううん、違うわ。私がそう感じたからよ。だからこっちからサヨナラしたの」