ふたり。-Triangle Love の果てに

~片桐勇作~


明け方、玄関のドアを強く閉める音で目が覚めた。


…真琴?


いつもはまだ眠っている俺に気を遣って、極力音を立てないようにしてくれるのに、今日に限っては違っていた。


バタバタと部屋に入っていく真琴。


そしてしばらくすると、くぐもった泣き声が隣の部屋からかすかに聞こえてきた。


俺は身体を起こした。


どうしたんだろう…


また圭条会や須賀一家のやつらが店に来たのか?


それとも…


それとも泰輔兄さんと何かあったのか?


居ても立ってもいられずベッドから出たものの、声を殺して泣く妹のことを思うと、今声をかけるのはいい考えだとは思えなかった。


仕方なく俺は壁にもたれると、妹の漏れ聞こえてくる嗚咽に固く目を閉じるしかなかった。



どうしたんだよ…


今日はおまえの誕生日だろ?


なんで泣くんだよ。


朝起きたら渡そうと思っていたプレゼント。


分厚いカーテンを突き通す朝日の中で、ぼんやりとその姿を浮かび上がらせた。



俺が出勤する時間になってようやく、真琴の部屋のドアが開いた。


誕生日おめでとう、なんて到底言えないほど疲れ切ったその顔。


「ごめんね、お兄ちゃん。朝ご飯用意できなくて。ちょっと、体調悪くて」


目が腫れていた。


でも気付かないふりをする。


「大丈夫、気にしなくていいよ。いつまでもおまえにばかり頼ってちゃいけないし。そうだろ?」


もうすぐ別々に暮らすんだからさ、という言葉を飲み込む。


「…そうね」


「無理するんじゃないよ。どうしてもダメなら今夜は仕事は休むんだよ」


「…うん、ありがと」


「じゃあ、行ってくるから。何かあったら電話して」


靴を履く俺の後ろに立った真琴。


「お兄ちゃん」


「んー?」


「私、泰兄とは別れたの」


手が止まる。


なんとなく予想はしていたことだったけれど…


でもどんな顔で振り向けばいい?


そして泰輔兄さんに対して、ふつふつと怒りが込みあげてくる。


「…どうして」


背を向けたまま、かすれてしまった声で俺は訊いた。


「やっぱり泰兄とは、住む世界が違ったの」


「泰輔兄さんがそう言ったのか」


「ううん、違うわ。私がそう感じたからよ。だからこっちからサヨナラしたの」

< 165 / 411 >

この作品をシェア

pagetop