ふたり。-Triangle Love の果てに
嘘だ。
おまえは彼のことを誰よりも深く愛していた。
よほどのことがない限り、おまえから別れを告げるなんてことはあり得ない。
彼の話をする時の真琴の頬を赤らめた顔が次々と浮かぶ。
彼を見つめる時の、熱い視線が頭をよぎる。
あんなに嬉しそうに
あんなに幸せそうに
彼を想っていたのに…
どうして…
「泰輔兄さんがおまえを傷付けるようなことをしたんじゃないのか」
振り返った俺は、妹の肩をつかむと激しく揺さぶった。
「そうだろ」
「違うわ!」
「だって、おまえはあんなにも…」
「やめて!もう終わったことなのよ!」
悲痛な声を上げて、真琴は俺の手を振り払った。
充血した目が痛々しい。
「…真琴」
「もう終わったのよ。だから…」
もうその話はしないで、そう目元が言っていた。
「少し気持ちの整理をしたいから、私の引っ越しは延期してもいい?」
「じゃあ俺もそうするよ」
「だめよ、お兄ちゃんは。千春さんが待ってるんだし」
かろうじて口元に笑みをたたえて、妹は言った。
「あーあ、最低の誕生日になっちゃったわ」
精一杯の強がり。
なぁ、真琴。
無理に笑わなくていい。
泣き足りないんだろう?
だったら、俺がこのドアを閉めたら思う存分泣けばいい。
隠すことなく、声をあげて涙が涸れるまで泣けばいいから。
「…行ってきます」
「いってらっしゃい」
そして俺は静かに玄関のドアを閉めた。
あがり口でうずくまって肩を震わせる真琴の姿を想像して、俺はたまらず錆びた階段を駆け下りた。