ふたり。-Triangle Love の果てに
「片桐!聞こえてんのか、電話!」
真琴のことばかり考えていて、ボーッとしていた。
隣のデスクの新人に「先輩、呼ばれてますよ」と肩をつつかれ、我に返る。
「え…あ、すみません」
「ったく、内線3番!」
デスクの受話器を取ると、赤く点滅するボタンを押した。
「お待たせしました、片桐です」
だめだ、仕事にならない。
どうしてこんなことになってしまうんだ。
真琴はどうしてるだろう。
今あいつの話し相手は、涙だけだ。
すぐにでも仕事を投げ出して家に帰りたいくらいだ。
俺があいつのそばにいても、かけてやる言葉すら見つからないだろうに。
でも隣にいることはできる…
俺は頭をかきむしった。
どんな気持ちで俺が、別々に暮らそうって言い出したと思ってるんだよ…
全部無駄になっちゃったじゃないか。
勘弁してくださいよ、泰輔兄さん。
俺が行く手を阻むようにして前に立つと、相手はこのことを予期していたかのように別段驚いた様子もなく言った。
「話なら後にしてくれないか。開店時間が迫ってる」
「お時間はとらせません」
「じゃあ早くすませてくれ」と彼は腕時計を見る。
「真琴と別れた理由を教えてください」
俺が真剣に訊ねたにもかかわらず、彼は鼻でふんっと笑った。
「泰輔兄さん!」
「おまえはいつまであいつの保護者なんだ」
「保護者?」
「俺たちがどうなろうと、それは当人同士の問題だ。それなのにこうやっておまえが出てくるのは度が過ぎているとは思わないか。勇作、あいつはおまえの所有物じゃないんだ」
泰輔兄さんの言う通りだった。
わかってる、そんなこと。
言われなくても、わかってるよ。
何も言い返せない俺を見て話はすんだと思ったのだろう、彼は俺の横を通り過ぎる。
「ま…待ってくださいっ」
その背中を俺の声が引き留めた。