ふたり。-Triangle Love の果てに
「なんだ、まだ何かあるのか」
「俺がでしゃばっているのは百も承知です。でも真琴は…妹はあなたのことを本当に想っていました。なのになぜですか。あなたは真琴のことをどう思っていたんですか?」
「別れた理由をあいつは何と?」
「生きている世界が違う、と。だから自分から別れを告げた、と」
「生きてる世界か…あいつがそう言ったのならその通りだろう。なぜそれをわざわざおまえが確認しに来る必要がある」
「あいつから別れようだなんて、よほどの理由があるはずです」
「だから、俺が何かしたと?」
「少なくとも俺はそう思っています」
一瞬白い歯を見せた泰輔兄さんは、恐ろしいほど鋭い目をして引き返してきた。
「勇作」
ただ者とは思えないほどの威圧的な声。
「ここまであいつのためにするのは、兄貴としての使命感からか?それとも…」
「兄だからです!」
泰輔兄さんが言い終わらないうちに、俺は声を張り上げた。
彼の視線が痛い。
「本当か」
「あたりまえでしょう!」
俺は動揺していた。
その心の乱れを見透かしたように、泰輔兄さんは口元を歪める。
あの昔から変わらない何もかも悟ったような、そしてぞっとするような笑み。
「俺は一生真琴の兄貴です」
自分を奮い立たせるように俺は言い切った。
「だといいけどな」
耳元でそう言い残すと、彼は踵を返した。
きらびやかな灯りが次々とともる通りで、俺は身動きひとつできずに立ちすくんでいた。
ねっとりとした空気がまとわりつき、額からは熱い汗が流れていたのに、背筋を流れる汗はどういうわけか冷たく、寒気さえ覚えた。