ふたり。-Triangle Love の果てに
泰輔兄さんは知っている。
俺が…
俺が真琴の本当の兄貴じゃないってことを。
真琴がなつみ園でいなくなって大騒ぎになった日の夜、左のこめかみあたりに大きなガーゼを貼り付けて診療所から戻ってきた泰輔兄さん。
そんな彼に謝った。
「すみませんでした、真琴のためにケガをさせてしまって」
「たいしたことないさ」
「でも5針も縫ったって…」
「そんなことより、あいつはおまえの大事な妹なんだろ?」
「え?は、はい」
「じゃあ目を離すなよ。こんなにみんなを巻き込んで。おまえの大事ってその程度なのかよ」
きっと彼は「大切な妹にケガさせないように注意しろよ」と言いたかったんだろう。
だけど当時の俺はそうは受け取らなかった。
おまえのせいで迷惑を被った、そう言われている気がした。
おまえがちゃんと面倒見てないからだって、言われてる気がして悔しかった。
俺だって自分のことを後回しにして真琴の面倒を見ているのに、大切に思っているのに、どうしてこの人にこんな言い方をされなきゃいけないんだろう。
それまで真琴のためにやってきたことが否定されたようで、ムカムカした。
そして言ってはいけないことをつい口にしてしまった。
「いくらなんでも四六時中見張ってるなんて無理でしょ。あいつにだって意志はあるし、好きなところへ行ける足もついてる。第一、俺と真琴は血がつながっていないんだから、そこまでしなくても…」
言い終わる前に、ものすごい後悔という波が俺の心に押し寄せてきた。
なんてことを言ってしまったんだろう、って。
真琴を大切に思っている、それは間違いない。
血がつながっていないことなんて考えたこともないほど、かわいく思ってる。
カッと怒りにまかせて言ってしまった言葉を取り消すことはできなかった。
そんな俺の様子に気付いた泰輔兄さんは、ポンと肩をたたくと「だったらなおさら大事にしてやれよ」とだけ言って、二段ベッドの下に潜り込み、カーテンを勢いよく閉めた。
今でもあの夜のことは鮮明に覚えている。