ふたり。-Triangle Love の果てに
真琴。
怖かったんだ、俺。
おまえと泰輔兄さんが付き合ってると知って、彼がいつか俺が本当の兄貴じゃないってばらすんじゃないかって。
そんな人じゃないってわかっていたはずなのに、信じ切れなかった。
どうしてもおまえに知られたくなかったんだ。
傷付けたくなかったから。
たった一人の肉親だと思っている俺が、実は赤の他人だなんて知ってしまったら、おまえは本当にひとりぼっちになってしまう、そう思ったんだ。
お父さんとお母さんが死んでから今まで、ずっとふたりで支え合ってきたのに。
それが偽りだったと思われるのが、怖かったんだ。
そして、もう一つの理由。
俺が「片桐勇作」であるために、決して知られたくなかったんだ。
長谷部勇作、これが俺の昔の名前だ。
小学校に入ると同時に、子どものいなかった片桐夫妻の養子として引き取られた。
ふたりは優しく時に厳しく、本当の息子のように接してくれた。
これが親というものなんだって、幼心に強く思った。
幸せだった。
生まれて初めて「お父さん、お母さん」と呼べる人ができたんだから。
でも、俺が片桐勇作になって半年ほど経った頃、お母さんのお腹におまえが宿っていることがわかった。
お父さんもお母さんも、俺を気遣ってか手放しで喜ぶことはしなかったけれど、本当は嬉しくて嬉しくて仕方なかったんじゃないかな。
何てったって、自分たちの血を分けた子どもができたわけだから。
俺は恐怖を感じた。
その子が生まれたきたら、俺は片桐夫妻の子どもという「役目」を終えてしまうような気がしたからだ。
お父さんとお母さんに捨てられる、そう思って夜も眠れない日が続いた。
生まれてこなければいいのに。
本気でそう願った。