ふたり。-Triangle Love の果てに
顔を上げると、玄関の扉が半開きのまま、冷たい風にキィキィと情けない音を立てていた。
『俺は俺のやり方で、必ず泰輔兄さんからおまえを取り戻してみせる』
そう言って、お兄ちゃんは飛び出して行った。
めまいと軽い頭痛を感じながら、そろそろと立ち上がってそのドアを閉めた。
振り返ったダイニングの床には、お弁当箱に詰めるはずだったおかずがまだ散乱していた。
泣きながら、拾い集める。
お兄ちゃんの唇の感触が生々しく蘇ってきて、思わず手が止まってしまった。
いつもの優しいお兄ちゃんじゃなかった。
初めて怖いと思った。
今まで私の前ではいつも「お兄ちゃん」の顔だったのに、さっきは紛れもなく「男の人」の顔だったから。
私を女として愛してる、だなんて…
そんなこと…
どうしてこんなことになってしまったのだろう。
私がこの真実を知ろうとしなければ、こんなことにはならなかったの?
そうすれば、お兄ちゃんを傷付けることもなかった?
ああ…ごめんなさい。
到底お兄ちゃんの気持ちに応えられない。
だって私はもう泰兄のことしか考えられないのだから。
どれだけ反対されようとも、もう迷わない、そう決めたの。
どんなことがあっても彼についてゆく、そう決めたの。
何度か深呼吸すると、また止めた手を動かし始めた。
でも涙で目の前が曇ってよく見えない。
お兄ちゃん…
お兄ちゃん…
お互い、これが悪い夢でありますように…
そう願わずにはいられない…