ふたり。-Triangle Love の果てに
待って!一緒に入るの!?
彼に背を向けながら、私は隅っこに移動する。
湯に入ってくる彼を感じながら、身を硬くした。
「出るなら出ろ。あっち向いててやるから」
「…出る」
のぼせたからなのか、それとも恥ずかしいからなのか、よく自分でもわからなかったけれど全身がカッカッと燃え出しそうだった。
手早く水気を拭き取り、浴衣を身にまとう。
泰兄は言葉通り、私のいる方向とは正反対を向いていた。
部屋に戻ろうと思ったけれど、それもちょっと惜しい気がする。
せっかく大好きな人と、こんなに長い時間を過ごせるんだもの。
そばにいたい。
私は岩風呂の縁に腰かけると、足だけを浸した。
湯の中でゆらゆらと歪んで見える2本の足。
彼も縁に腕をかけ、上を見上げたまま目を閉じている。
本当に静かなところ。
永遠に続きそうな静寂。
ねぇ、泰兄?
私ね、嬉しかったの。
あなたが背中の刺青を見せてくれた時。
何もかも打ち明けてくれた気がして。
私の前で決して上着を脱がなかった理由も、
入院中着替えを手伝わせてくれなかった理由も、
全てはこの「彼」がいたからなのね。
「彼」を私に見せてくれたということは、あなたの全てを打ち明けてくれたと思ってもいいのよね?
だってこの龍は、あなたの悲しみも喜びも全部知ってるんだもの。
額に汗をにじませる彼の横顔を湯気を通して見つめる。
このまま時が止まればいいのに…
「…つっ…!」
今まで静かに瞳を閉じていた彼が、突然眉を寄せ小さくうめいた。
「どうしたの?」
私は湯から足を出すと、駆け寄った。
「傷が痛むの?」
どうしよう…
とにかくあがらせなきゃ。
そう思って彼の手を取った。
それなのに、逆に私の方が引っ張られて湯に落ちてしまった。
何がなんだか状況が飲み込めない。
あまりに突然のことであっぷあっぷする私を見て、泰兄は大笑いをしていた。
「いくらなんでも足はつくだろ。なんてったってここは風呂なんだからな」って。