ふたり。-Triangle Love の果てに


彼の部屋は超高級マンションの最上階。


間取りは2LDK。


私が住んでいたアパートの部屋の10倍はあるんじゃないかと思うほどの広さ。


荷物を運び込んでも、なお広い。


寝室には大きなベッドが、ででんと居座っているだけ。


「ひとりでこんな大きなベッドは必要ないわよね。たくさん女の人が遊びに来たんでしょうね」


片付けが一通り終わった私が嫌味をこめてそう言っても、泰兄は聞こえていないかのようにコーヒーカップを片手にリビングの本棚の前に立っていた。


そっとのぞいてみる。


壁一面を占めるその大きな本棚には、経営学の本をはじめ、法律の専門書、マナー、語学、世界中のお酒を紹介した事典まで、様々なジャンルの本がぎっしりと並べられていた。


今に至るまで、彼がどれだけの努力をしてきたのかわかった気がした。


「なんだ?」


私の視線に気付いた彼が、手に取っていた本を閉じてこちらを見る。


「別に」


ロングTシャツに、ゆったりとしたスウェット。


スーツ姿の彼ばかりを見てきた私にとっては、とても新鮮。


「俺は寝相が悪いんだ。大きめじゃないと落ちるだろ」


なによ、さっきの私の嫌味、聞こえてたんじゃない。


しかも寝相が悪いだなんて、ヘタな言い訳を何食わぬ顔で。


ふてくされた私の顔を見て、彼は笑った。


「早速ヤキモチか」


「そんなんじゃないわ」


嘘、ヤキモチ。


顔も知らない彼の過去の女性に、私は嫉妬している。


もしかしてあの人もきっとここで。


AGEHAでちぃママをしているというあの京香という女性…


彼と親しそうだったし…


入院中の泰兄のお見舞いに来て、私が彼のそばにいることを知って、とても怒っていたもの。


きっと…


「ったく、世話のやけるやつだな」


泰兄はあきれたようにそう言うと、キャビネットの引き出しから一枚の紙を取りだし、テーブルに置いた。


その上を滑ってくる紙を手に取る私。


「配送伝票?」


配達日は私が越してくる2日前。


つまり一昨日。


品名はベッド、キングサイズ、となっている。


と、いうことは…


「これで疑いは晴れたか?」


コーヒーを飲みながら上目遣いの彼。


「…私のために?」


「おまえ、寝相悪かっただろ?よくなつみ園のベッドから落ちてたもんな」


「子どもはみんな寝相が悪いものなの!」


恥ずかしいやら、嬉しいやらで顔が熱くなる。


< 234 / 411 >

この作品をシェア

pagetop