ふたり。-Triangle Love の果てに
彼の部屋は超高級マンションの最上階。
間取りは2LDK。
私が住んでいたアパートの部屋の10倍はあるんじゃないかと思うほどの広さ。
荷物を運び込んでも、なお広い。
寝室には大きなベッドが、ででんと居座っているだけ。
「ひとりでこんな大きなベッドは必要ないわよね。たくさん女の人が遊びに来たんでしょうね」
片付けが一通り終わった私が嫌味をこめてそう言っても、泰兄は聞こえていないかのようにコーヒーカップを片手にリビングの本棚の前に立っていた。
そっとのぞいてみる。
壁一面を占めるその大きな本棚には、経営学の本をはじめ、法律の専門書、マナー、語学、世界中のお酒を紹介した事典まで、様々なジャンルの本がぎっしりと並べられていた。
今に至るまで、彼がどれだけの努力をしてきたのかわかった気がした。
「なんだ?」
私の視線に気付いた彼が、手に取っていた本を閉じてこちらを見る。
「別に」
ロングTシャツに、ゆったりとしたスウェット。
スーツ姿の彼ばかりを見てきた私にとっては、とても新鮮。
「俺は寝相が悪いんだ。大きめじゃないと落ちるだろ」
なによ、さっきの私の嫌味、聞こえてたんじゃない。
しかも寝相が悪いだなんて、ヘタな言い訳を何食わぬ顔で。
ふてくされた私の顔を見て、彼は笑った。
「早速ヤキモチか」
「そんなんじゃないわ」
嘘、ヤキモチ。
顔も知らない彼の過去の女性に、私は嫉妬している。
もしかしてあの人もきっとここで。
AGEHAでちぃママをしているというあの京香という女性…
彼と親しそうだったし…
入院中の泰兄のお見舞いに来て、私が彼のそばにいることを知って、とても怒っていたもの。
きっと…
「ったく、世話のやけるやつだな」
泰兄はあきれたようにそう言うと、キャビネットの引き出しから一枚の紙を取りだし、テーブルに置いた。
その上を滑ってくる紙を手に取る私。
「配送伝票?」
配達日は私が越してくる2日前。
つまり一昨日。
品名はベッド、キングサイズ、となっている。
と、いうことは…
「これで疑いは晴れたか?」
コーヒーを飲みながら上目遣いの彼。
「…私のために?」
「おまえ、寝相悪かっただろ?よくなつみ園のベッドから落ちてたもんな」
「子どもはみんな寝相が悪いものなの!」
恥ずかしいやら、嬉しいやらで顔が熱くなる。