ふたり。-Triangle Love の果てに
彼はお酒についても詳しくて、バーテンダーの私の相談にもよくのってくれる。
お父さんの心残りである「MAKOTO」というカクテルを、いつか完成させたいと彼に話したことがある。
ある時、ノートにそのレシピの候補を書き連ねていると、背後から泰兄がのぞきこんできた。
「まだ見ないで」
手でノートを隠すと、意地悪そうな笑みを浮かべて「減るもんじゃないだろ」と言う。
「そうだけど」
「見せてみろよ」
カップをテーブルに置くと、その手でノートを取る。
ミルクの入ったそのコーヒー。
これは彼が私のために作ってくれたもの。
砂糖をスプーンに1杯、ミルクをたっぷり入れたカフェオレ。
泰兄がノートに目を落としている間、私はゆっくりとそのカップに口をつけた。
少し熱めのカフェオレが身体に沁みる。
「んー、おいしい」
彼を見上げると目が合った。
だろ?と言わんばかりに片方の眉を持ち上げると、彼は再びノートに視線を落としてから小さく唸った。
「このレシピでMAKOTOを作るのか」
「まだ決まってないけど、候補のひとつよ」
「だったら、やめたほうがいい」
ばっさりと切って捨てるような言い方に多少ムッとしながらも、その理由を尋ねた。
すると彼はこう答えた。
「まずカクテルの色がおまえのイメージに合わない。ピンクはあり得ない。それにこれだと、甘すぎて後味がしつこくなる。かえって喉が渇いてしまう。まるでファーストフードのシェイクだな」
そんな言い方しなくったって…
しかもピンクを全否定しなくても。
私、好きなのに、ピンク。
無言でノートを奪い取った。
彼の目にはおそらく、相当不機嫌そうに映っただろう。
「人の意見は素直に聞けるようになれ」
「確かにそうね。だけど、さっきみたいな言い方をされると、素直になるにもなれないものよ」
口を尖らせる私。
ノートをチェストの引き出しにしまうと勢いよく閉めた。
私ってまだまだ子どもね…
こうやってすねちゃって…
彼の指摘は的を射ているし、鋭い。
とても参考になるのだけれど…
泰兄の前では、なぜか意地っ張りの幼子のように振舞ってしまう。
目の端で、白いルームウェアが動いた。
「やれやれ」
顔をそちらに向けるも、依然膨らんだままの私の頬。
「確かに今のおまえならあのレシピで充分かもな。すねると手のつけられない駄々っ子みたいで。ま、幼稚ってことだ」
ポケットに手を突っ込んで、浅く履いたスリッパを引きずりながらこちらに来る。
「だけど」
彼が長い腕を伸ばすと、私はあっという間に抱きすくめられてしまった。