ふたり。-Triangle Love の果てに
~相原泰輔~
夜明け近くになって、眠る俺の横に濡れた髪のまますべりこんでくるマコ。
ひんやりとした感触が腕に伝わってくる。
髪くらい乾かして寝ろよ、いつもそう言っているのに「だって疲れてるし、眠たいんだもの」と返してくる。
バーのカウンターに立つ時は、匂い立つような女の魅力を醸し出しているくせに、俺の前ではまるで子どもみたいだ。
まぁ、そういうところも悪くはないのだが…
昼過ぎに目を覚ますと、俺にくっついて眠っているマコ。
彼女のためにコーヒーを淹れるのが、いつしか俺の日課になっていた。
「起きろよ」
そんな俺の声に、眠そうに微笑むおまえ。
一緒に暮らすようになってから、俺は初めて「与える喜び」というものに気付いた。
一人の人間のために何かをする。
コーヒーを淹れるという些細なこともそうだが、何よりもこの女のためならどんなことでもしよう、と思える。
『男ってのはなぁ、惚れた女がいるだけで命かけて仕事ができるもんなんだよ』
以前浩介さんがそう言っていたことが、今になってわかった気がする。
「あと5分…」
「だめだ」
耳元でそう言うと、くすぐったそうに身をよじる。
どんなに愛しても愛したりない。
初めてひとつになった夜、少し眉を寄せ俺にしがみついてきた瞬間、こいつは俺が守る、そう決心した。
日に日にその思いは強くなる。
だが、困ったことがひとつだけある。
マコの仕事が休みの夜、つまり日曜日の夜だ。
すでにAGEHAの経営を退いていた俺は、自然と夜に寝る生活に戻りつつあった。
だがマコは違う。
夜、共にベッドに入るが、あいつは明け方近くまでずっとしゃべっていて、俺を寝かせない。
「眠い、少し黙れよ」
「だめ、あなたが眠ったら私つまらないじゃない」
「何時だと思ってる、もう2時だぜ」
「まだ?じゃあまだ話せるわね」
かまわず目を閉じると、わざと彼女は俺の耳にキスしたり優しく噛んだりする。
「おい、いい加減に寝させてくれ」
「だーめ。いつも私を起こす時、泰兄は意地悪するんだもの」
意地悪?
そうか?
「ね、ね、月明かりって案外明るいのね」なんて俺の腕を揺するマコ。
そうだな、適当に返事をしながら俺はまどろむ。
そしてやっと眠りについた彼女を抱き寄せ、俺もようやく深い眠りにつくのだった。
あんなに幼かった少女が時を経て俺の胸の中にいるなんて、運命とはわからないものだな。