ふたり。-Triangle Love の果てに
ある日、英和辞典の間に挟んであった四つ葉のクローバーを、マコが見つけたらしい。
嬉しそうに「まだ持っててくれたのね」と俺のこめかみの傷跡に触れた。
バレたか。
「さぁ、そんなことあったか?記憶にないな」
「ほんとに?」
「ああ、全く覚えてない」
「ふぅん」と疑わしそうな上目遣いで俺を見てくる。
忘れるわけない。
俺のためにドロドロになってそれを探してくれた少女のことを。
それがおまえだった。
時を経て再会したおまえは見違えるほどにいい女になっていた。
Yesterdayのカウンターに立つ姿もいいが、素顔のままでこうやって笑ったりすねたりするおまえが、俺は好きだ。
昼過ぎに起き出して遅めの昼食をとった後、共に片付けをする。
初めはそんな俺にマコは驚いていた。
なんてったって、鶴崎組長の自宅で居候していた時はルリ姐さんにしごかれたからな、家事は一通り何でもできる。
「泰兄はいいから、ゆっくり座ってて。私がするから」なんて言ってくれるが、習慣というものはなかなか抜けにくい。
結局ふたりで家事をすることになっていた。
エプロンしたら?なんてマコがからかってくる。
「そうだな、おまえが選んで買っておいてくれ。フリル付きでもなんでもいい」
くだらない冗談に笑い合いながら、午後のひとときは過ぎてゆく。
そんな中で気がかりなことがあった。
勇作のことだ。
マコ自身気付いていないだろうが、時折物憂げな表情をする。
施設を出てからまず百貨店に就職したこと、そしてバーテンダー養成の夜間学校に通い出したこと、それらの話をする時に必ず出てくる勇作の存在。
お兄ちゃん、と口にする時の彼女の顔が、どこか寂しげで痛々しい。
この兄妹が連絡を絶ったのは、まぎれもなく俺が原因だ。
俺が圭条会の一員だからだ。
勇作は決して許しはしないだろう。
両親だけでなく、最愛の「妹」まで奪われたのだから。
勇作にとってマコは「妹」だ。
いや、「妹だった」と言ったほうが正しい。
彼らが血の繋がらない兄妹だということは、なつみ園で勇作本人から聞いた。
あの時はまだ妹として、マコを見ていた。
だが10年という歳月は、その愛の形を変えていた。
勇作の妹を見る目は明らかに変わり、兄と言うよりも「男」だった。
女としてのマコを愛している、そう思った。
直感だ。