ふたり。-Triangle Love の果てに
「…この木の上で、ずっとあなたは何を見ていたの?」
「……」
「海?空?それとももっと遠くにある違う何か?」
「……」
「…ごめんなさい、こんなこと訊いて。でもあなたがここを出てから、私もこの木に何度も登ったの。あなたが何を見ていたのか、何を思っていたのか知りたくて…」
「で、わかったのか」
いいえ、と小さく首を横に振ると明るい笑顔を作る。
そして幹を手のひらで軽く何度か叩いた。
「ね、登ってみない?」
「馬鹿言うなよ」
「わかった、もう登れないんでしょ」
「ったく、よく動く唇だな」
指でその顎を持ち上げると、俺は彼女に顔を近付けた。
「こらぁ、ここをどこだと思ってるんだ」
その声に、ちっ、と舌打ちする俺。
「子ども達がみたら大騒ぎになるだろ。そういうことはもっと違う場所でしろよな」
「天宮先生!」
素早く俺の手から逃れると、マコは気まずそうに頭を下げた。
「で、今日はクリスマス会の手伝いに来てくれたんだって?」
「え、ええ、そうです。何かお役に立てることがあればと思って…」
「泰輔も?」
にっと白い歯を見せて、天宮は俺を見る。
「まぁな」とだけ答えた俺の前に、聖書を小脇に抱えたまま天宮は立った。
「傷はもういいのか?」
「おかげさまで」
「そうか、よかったな」と彼はぱっと光が満ちるような笑顔を向けてくる。
「相変わらず無愛想だな、泰輔は。真琴、おまえの前でもそうなのか?」
「え?あ…えっと、はい…」
急にふられて慌てるマコ。
そんな彼女に声を立てて笑うと、天宮は「中に入ろう」となつみ園の建物に目をやった。