ふたり。-Triangle Love の果てに


「…この木の上で、ずっとあなたは何を見ていたの?」


「……」


「海?空?それとももっと遠くにある違う何か?」


「……」


「…ごめんなさい、こんなこと訊いて。でもあなたがここを出てから、私もこの木に何度も登ったの。あなたが何を見ていたのか、何を思っていたのか知りたくて…」


「で、わかったのか」


いいえ、と小さく首を横に振ると明るい笑顔を作る。


そして幹を手のひらで軽く何度か叩いた。


「ね、登ってみない?」


「馬鹿言うなよ」


「わかった、もう登れないんでしょ」


「ったく、よく動く唇だな」


指でその顎を持ち上げると、俺は彼女に顔を近付けた。


「こらぁ、ここをどこだと思ってるんだ」


その声に、ちっ、と舌打ちする俺。


「子ども達がみたら大騒ぎになるだろ。そういうことはもっと違う場所でしろよな」


「天宮先生!」


素早く俺の手から逃れると、マコは気まずそうに頭を下げた。


「で、今日はクリスマス会の手伝いに来てくれたんだって?」


「え、ええ、そうです。何かお役に立てることがあればと思って…」


「泰輔も?」


にっと白い歯を見せて、天宮は俺を見る。


「まぁな」とだけ答えた俺の前に、聖書を小脇に抱えたまま天宮は立った。


「傷はもういいのか?」


「おかげさまで」


「そうか、よかったな」と彼はぱっと光が満ちるような笑顔を向けてくる。


「相変わらず無愛想だな、泰輔は。真琴、おまえの前でもそうなのか?」


「え?あ…えっと、はい…」


急にふられて慌てるマコ。


そんな彼女に声を立てて笑うと、天宮は「中に入ろう」となつみ園の建物に目をやった。
< 245 / 411 >

この作品をシェア

pagetop