ふたり。-Triangle Love の果てに
「疲れた、ガキは懲り懲りだ。帰りはおまえが運転しろ」
そう言ってキーをマコに向かって投げる。
「無理よ、こんな大きな車。ぶつけたらどうするの」
「おまえが乗ってたマーチと車幅はほとんど変わらない。それに万が一ぶつけてもうまく直してくれるところを紹介してやるから」
「そういう問題じゃ…」
困惑した彼女をよそに、さっさと助手席に乗りこんでシートを倒す。
渋々運転席に座り、ぎこちなくシートやミラーの調節をする彼女。
「知らないわよ、どうなっても」と言いながら、恐る恐るアクセルを踏む気配に笑ってしまう。
「どうして笑ってるのよ、真剣なのに」と前屈みになってハンドルを握っている。
「頼んだぞ、せいぜいかすり傷くらいですませてくれよ」
「知らないっ」
マコは対向車とすれ違うたびに、小さな悲鳴を上げる。
ビビらなくても、中央線があるだろ。
よっぽどのことがない限り、相手もはみ出してこない。
俺は目を閉じた。
どっと疲れを感じる。
案の定、俺たちは天宮からは施設に入所している子どもたちの相手をおおせつかった。
初めは俺の放つ雰囲気に怖じ気づいて、誰も近付いてこようとはしなかった。
このまま相手をせずに帰れるな、なんて思っていたのが甘かった。
3歳くらいの怖いもの知らずが話しかけてきたのを皮切りに、どっと俺のもとに子どもたちが押し寄せてきた。
マコに助けを求める視線を投げかけたが、ツリーの飾り付けに夢中で気がつかない。
それから2時間、絵本やら黒ヒゲ危機一髪やらの相手をさせられたクタクタの俺に、容赦ない言葉が浴びせられた。
「お兄ちゃんてば、絵本読むの下手。ピーターパンなのに怖いお話を聞いてるみたい」
あたりまえだろ、うまくてたまるかよ…
「あのなあ…まぁ、いい」
ガキ相手に腹を立てても仕方ない。
煙草でも吸いに出るか…
腰を浮かそうとすると、すかさず呼び止められる。
「お兄ちゃん、どこ行くの」
「あ、わかった。お外で遊ぶの?」
「じゃあさ、今学校でドッチボールやってるからさ、ここでもやらない?」
ため息をつくと、俺は人差し指を立てて諭すように言った。
「いいか、これからはおとなの時間だ。ついてくるな」
きょとんとしたいくつもの顔にもう一度「わかったな」と念を押すと、外に出た。