ふたり。-Triangle Love の果てに
やれやれ…ったく。
胸元から煙草を取り出し、火を付ける。
ふぅーっと寒空に煙を吹きかけた。
「身体に悪いぞ」
…ああ、せっかくガキ達から逃げてきたのに、今度はあんたかよ。
煙草をくわえ直すと、声がした方に目をやる。
「子どもたちと遊んでやってくれと言っただろ。もうギブアップか?」
あちこちに毛玉のついたくたびれた紺色のセーター姿の天宮が、ニヤニヤしながら俺の隣に腰かけた。
「ガキは苦手だ」
「俺だって昔は苦手だったな。どう接していいかわからなくて」
「それでよくこんな施設をやってるよな」
「人生どうなるかなんて、わかんないもんさ」
こけた彼の頬は、笑うと幾筋もの皺を浮き上がらせる。
「ところで真琴はおまえにぞっこんだな。顔を見てるだけでそれが伝わってくる」
照れ隠しで煙草を燻らせた。
「あいつはおまえが圭条会にいることを受け入れてくれたんだな」
「…さぁわからない。あいつはそう言ってくれるが、本心かどうかはわからない」
建物からはピアノに合わせて子ども達の歌声が響き始めた。
しばらくの間、ふたりでその歌を聴く。
ハーモニーなんてまるで関係ないその歌声。
一人ひとりが目立ちたい、自分を見てくれ、ここにいるから…そんな親のいない子ども達の叫びのようだ。
「真琴に怒られたんだ。おまえが圭条会に入るのをどうして止めてくれなかったんだって」
あいつ、そんなことを…
じゃあ、やっぱり俺が組織にいることを快く思っていないのか…
「当時はおまえの居場所がそこならって思ってた。だけど、今は後悔してる。何がなんでも止めるべきだったってな」
「……」
「今からでも遅くないんじゃないか?真琴のためにも…」
何言ってんだよ、もう手遅れだ。
俺は組長代行だぜ?
組を抜けます、はい、そうですかっていくわけないだろう。