ふたり。-Triangle Love の果てに
「話はそれだけか」
半分ほどになった煙草を地に落とすと、かかとで踏みつぶした。
「おっと、これだから喫煙者の肩身が狭くなるんだな」
そう言って俺は吸い殻を拾い上げると、携帯灰皿に突っ込んだ。
「泰輔」
まだ話は終わっていない、そう言うように彼の手が俺をつかむ。
「…もうそろそろ帰らなきゃならない。仕事があってな」
話の続きを拒むように、その手を振り払う。
だが、食い下がる天宮。
「勇作は!…勇作は何て言ってる、おまえたちのことを」
痛いところをついてくるな…
「勘弁してくれよ」
天宮、あんたの言いたいことはわかってる。
俺自身、マコとこうなったことを手放しで喜んでいるわけじゃないし、これからのことを考えていないわけでもない。
でも今は…もう少し…
もう少しだけ立場やしがらみなんか気にせずに、一人の男と女として一緒にいさせてくれないか。
必ず俺たち、勇作も含めて納得できる形であんたに報告する。
だから…
「ねぇ!起きて!もうすぐ高速なんだけど、右?左!?」
現実に引き戻された感覚で目を開けると、なるほどY字に道が分かれている。
案内板を見ろよ。
俺は無言で右を指さした。
無事にマンションへ着いた愛車と俺たち。
ベッドに寝そべり、今日天宮に言われたことを反芻しているとマコが隣に入ってきた。
相変わらず髪は濡れたまま。
「ちょっとくらい乾かしてこいよ」
甘い香りを漂わせながら、彼女は笑ってベッドに潜り込む。
「今日は、あんな高級車を運転して疲れちゃったの」
なんだかんだと言い訳をして、結局面倒なだけだろ。
「消すぞ」
返事を待たずに明かりを落とすと同時に、マコが身体を寄せてきた。
それに応えるように、俺もそのなだらかな腰へと腕を伸ばし引き寄せる。
その時、天宮がまた頭の中で囁いた。
『今からでお遅くないんじゃないか。真琴のためにも…』
動きを止めた俺を見上げる彼女。
「どうしたの」
月明かりが彼女の瞳を妖しく照らす。
「今夜はよそう…俺も疲れた」
それだけ言うと、その瞼に優しくキスをしてベッドに仰向けになった。
だが、一向に眠りは訪れなかった。