ふたり。-Triangle Love の果てに
~片桐真琴~
ある日、Yesterdayの用事で花屋のウエノに赴いた。
「おはよう、ケンちゃん。おじさんは?」
「配達」
相変わらずの素っ気なさだけれど、もう慣れっこ。
「頼まれてた花できてるから、伝票にサインして持ってって」
「ありがとう」
ペンを執りながら「あ、そうだわ」と彼を見る。
「ここには花の苗はおいてある?」
「そんなのない。第一こんな繁華街で苗なんて売るわけない」
「そっか、そうよね…」
私があまりにも残念そうにしていたのだろう、「なんで」と彼は訊いてきた。
自宅のバルコニーを花で飾りたいと話すと「じゃあ俺が買っておいてやるよ」と意外な言葉が返ってきた。
「いいの?」
「ご希望は?」
「そうね、ガーデニングは初心者だから、手入れが簡単でいっぱい花が咲くのがいいわ。そんな都合のいいのってある?」
「色は?」
「うーん、ケンちゃんに任せるわ。私に似合う色を選んで」
彼は私の顔をしばらく凝視すると「明日取りに来て。準備しとくから」とだけ言って店の奥に入っていった。
翌日Yesterdayに行く前にウエノに寄ると、ケンちゃんが袋に入れた花の苗を付き出すように渡してきた。
「ありがとう」
中をのぞくと、白と紫のかわいらしい花がちらほら付いている。
「かわいいわね。何て花?」
「サフィニア」
サフィニアね、と私も繰り返す。
「これから蕾がたくさんつき始める」
ケンちゃんは植え替えの注意、水のやり方などを丁寧に説明してくれた。
本当に花が好きなのね。
別人のように多弁になる彼を見て心に温かいものが広がる。
「咲き終わった花はちゃんと摘み取って。間延びした茎は切り戻さないとだらしない格好になるから」
「切り戻し?」
キョトンとした私に、困ったように彼は頭をかいた。
私は初心者なんだもの、園芸用語だって詳しくない。
「ま、いいよ。この分だと切り戻しするまでにまだ時間かかるから。その時期になったらまた説明する。じゃ俺、今から配達だから」
「うん、いろいろとありがとうね」