ふたり。-Triangle Love の果てに

「いい天気だな」


後部座席に身を委ねながら、彼は呟いた。


「若い衆も皆、首を長くして組長のお帰りを待っております」


「ありがたいな」


「AGEHAを貸し切りにしていますから、大いに盛り上がりましょう!」


勝平はウキウキしたようにずっと話している。


「ああ、そうだな」と直人さんは頷いたが、俺は知っている。


彼がそういうことを得意としていないことを。


大勢で酒を酌み交わしたり、女と騒いだりするのを好まない。


「久々の車で酔いませんか?」と俺は訊いた。


「いや、大丈夫だ」


「しかし急な長距離の移動は、お体によくありません。勝平、次のサービスエリアで止めろ」


車を止めさせると、金を渡して言った。


「飲み物と何か食べる物を買ってこい」


「了解しました」


「おまえのも買っていいぞ」


ガキみたいな顔をして喜ぶと、勝平は駆けていった。


その隙に運転席に乗り込むと、ハンドルを握った。


「いいのか?」


「いいんですよ、あいつがいるとうるさくてかないません。ずっとしゃべってる。それに金は渡してます。なんとかして帰ってきますよ」


そう言って俺はアクセルを強く踏んだ。


「直人さん、どうです。せっかくですから久々においしいコーヒーでも」


ミラーで彼をうかがうと、「そうきたか」と言わんばかりに彼が額を撫でるのが見えた。


もし俺が彼の立場だったならば…


こうやって自由の身になったのならば…


きっとこう思う。


好きな女に会いたい、と。


きっと、そう思う。
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