ふたり。-Triangle Love の果てに


「気が利くじゃないか」


脇に止まっていた黒くいかつい車の窓から、ひょっこりと現れた顔。


「泰兄!」


「おまえにしては上出来だ」


「あの人、泰兄の知り合い?」


「俺たちの組長だ」


「じゃあ、あの人が橘さん…」


「ああ、そうだ」


ゆり子さんの好きな人、それは圭条会橘組の組長、橘直人さん。


暴力をふるう前夫から彼女を助け出し、お店を出すのも手助けしてくれたという…


それがあの人。


泰兄の話では、よりを戻したいゆり子さんの前夫が彼女につきまとうようになったのを、橘さんが再び間に入ったらしい。


その場で前夫は、二度とゆり子さんに近付かないと誓ったのに、すぐに脅迫されたと警察に駆け込んだ。


ヤクザなだけに脅迫ととられても仕方ないし、そこでゆり子さんと前夫と橘さんの間でどんなやりとりがあったかはわからない。


ただ、橘さんは「二度と彼女に近付くな。この約束を破った時にはどうなるか、いい大人なんだからわかるでしょう」と言ったそうだ。


結局彼は脅迫罪で訴えられ、何も反論することなく服役した後、今日出所してきたという。


これで、ゆり子さんが好きな人の素性を詳しく話してくれなかったワケがやっとわかった。


「少し早いが、暇つぶしに飯でも食いに行くか。おまえだって、しばらくはあそこの店には戻れないだろ」


「そうね。じゃ、泰兄のおごりね。私何も持って出てこなかったのよ」


「鈍くさいやつだな」


「さっきは褒めてくれたじゃない。気が利くなって」


「撤回だ」


「もう!」


「さっさと乗れ」


車の助手席に乗ると、私は彼の横顔を見つめた。


ああ、私はこの人を愛してる。


愛してしまった。


憎い組織の人間だと知ってもなお、この気持ちだけは止めることができなかった。


ゆり子さんもきっとそう。


愛する人が極道であろうがなかろうが、人としての彼を愛している。


だって2年も待ってたんだもの。


ううん、本当はもっとずっと前から待っていたのかもしれない。


うまくいってほしい。


幸せになってほしい。

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