ふたり。-Triangle Love の果てに


赤信号で止まるとサイドブレーキをかけながら、泰兄が言った。


「なんだ、ジロジロと。気持ち悪いな」


「泰兄」


「あ?」


「キスして」


「バカか、おまえ。頭でもおかしくなったか」


「キスして」


真顔の私を見ると、彼は少しだけ笑って運転席から身を乗り出した。


「仕方ないやつだな」って言いながら、唇を重ねた。


自分から求めたはずの口づけなのに、いつも彼に応えるので精一杯な私。


彼の手が頬から首筋をたどる。


好きよ。


大好きよ、泰兄…


信号が青になっても、クラクションを鳴らされてもおかまいなし。


熱い口づけに、身も心もとろけてしまいそう。


2度目の後続車のクラクションで、ようやく離れた私たち。


「くそったれ、いいとこだったのに」


スネたように彼は言うと、威嚇するようにエンジンをふかして急発進した。


彼の口元がうっすらピンク色なのに気付いた私は、指でそっとぬぐう。


「前に言っただろ、口紅は塗るなって」


「あ!」


突然声を上げた私を、泰兄がちらりと見た。


「どうした」


「うふふ、内緒」


「おまえ、とうとうおかしくなったか」


わかちゃったの、私。


ゆり子さんがあのお店の名前を「シトラス」ってつけた理由。


店の前にある大きな鉢植え。


そのタチバナの木をとても大切にしていた理由。


シトラス…


日本語名はタチバナ。


あの店でずっと彼を待ってたのね。


彼のそばにずっといたいって、そう願いながら…


もう、ゆり子さんってば、かわいい。


でもある意味、大胆な告白かも。


くすくすと一人で笑う私に泰兄が言った。


「飯を食いに行くのはやめて、病院でも行くか」って。
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