ふたり。-Triangle Love の果てに
~片桐真琴~
ステキな再会以来、橘さんは時々シトラスにやって来た。
窓際のボックス席で、コーヒーを飲みながら本を読む。
ゆり子さんと何を話すでもなく、ただ本を読んで帰って行く。
私がいるから話しにくいのかもしれない、と表の花壇の手入れに出たりして様子を伺っていたけれど、やはり二人は変わらない。
ただ、同じ空間にいることが心地いい、そんな感じなのかもしれない。
たまにゆり子さんが「今は何をお読みになってるの?」とか「何か召し上がる?」と柔らかく声をかける。
なのに、橘さんは短く答えるだけ。
この話をすると「だろうな」と言って、泰兄は私の髪をすくって宙で指の間から滑り落とす。
「あのふたりは結婚しないのかしら」
「少なくとも直人さんにはその気はないだろうな」
「どうして」
彼はベッドから出ると、シャツに袖を通した。
「ゆり子さんに組長夫人の肩書きは似合わない」
「そうかしら」
「おまえ、わかってないな。組長の妻は若い衆の面倒もみなきゃいけない。いざこざが起これば水面下で駆け引きもする。もちろん危険な目にも遭う。直人さんが彼女にそんなことを望むはずがない」
「でもゆり子さんは…」
私も負けじと身体を起こす。
「橘さんともっと一緒にいたいはずよ。ずっと彼を待ってたんだから、ずっと…」
背を向けてシャツのボタンを留めていた泰兄が、ちらりと私を見る。
「それはおまえの考えだろ。当人には当人にしかわからないこともある」
それはそうだけど…
「いいか、彼女に余計なことを言うんじゃないぞ」
「……」
納得できない私をよそに、彼はキッチンでコーヒーを淹れ始めた。