ふたり。-Triangle Love の果てに


毎月決まった日に、私は両親のお墓参りに行く。


そのことは泰兄には話してはいない。


だって、亡くなった両親のお墓参りに行くだなんて、彼にとっては嫌味に聞こえてしまうかもしれないから。


やはり、心のどこかで彼が圭条会の人間であることが引っかかってる…


彼を愛してる。


心底愛してる。


だけど、あの事件のことで完全に圭条会を許したわけじゃない。


泰兄が両親を殺したわけじゃないのだけれど、このことに関しては今も複雑な心境のまま。



ある月命日、彼がいつもより早めに出かけようとする私を呼び止めた。


「今日は冷える。車で送っていこう」


「いいの、今日はちょっと寄る所があるし」


しどろもどろに答える私。


「その『寄る所』に送っていくと言ってるんだ。俺もそこに行かなきゃいけないと思っていた」


泰兄…?


「行くぞ」


強く手を引かれ、私たちは部屋を出た。



外は雪がちらついていた。


行き先を告げていないにもかかわらず、泰兄の運転する車はとある墓地の駐車場へと滑り込む。


「…どうしてここだって?」


運転席の彼の顔がまともに見られない。


膝に置いた指を絡ませたり解いたりしながら、私は返事を待った。


だけど返ってきたのは、思いもよらない言葉だった。


「手を合わせても、かまわないか」


「え?」


「おまえのご両親に手を合わせたい」



喉の奥が痛くなる。


苦しく締め付けられるような胸に手を置くと、私は「それは圭条会の代表として?」と低い声で訊ねた。


もし泰兄が組織の一員としてそうしたいと言うのであれば、私は…


だけど、彼は真っ直ぐに前を見つめたままきっぱりと言ったの。


「違う、俺個人としてだ」と。


「あの事件の謝罪もしたいと思ってる。それは組織の人間としてのものかもしれない。だが、今日はそれだけが目的じゃない。おまえとこういう関係になった以上、一人の男としてご両親に頭を下げたい」


「泰兄…」


「頼む」


その時わかったの。


彼は、私と付き合ってることに負い目を感じてるんだって。


圭条会の人間だから…


世間からは反社会組織の一員だと見なされているから…


だから私たちの愛は、許され得ぬものなのだと…


周りの誰からも祝福してもらえ得ぬものなのだと、そう思ってるに違いない。


「頼む」


目を閉じた彼の眉間の皺が一層深くなる。


それがとても苦しげに見えた。


泰兄。


私のことであなたが苦しむことはないのよ。


あなたを選んだのは私なんだから。


それにね、反対ばかりされてるわけじゃないのよ。


シトラスのゆり子さんだって、yesterdayのマスター夫妻だって、豊浜ののぞみだって。


この私たちの愛を祝福してくれる人はいるのよ。


< 261 / 411 >

この作品をシェア

pagetop