ふたり。-Triangle Love の果てに
「外は寒いから、コートを忘れないで」
そう言って、私は車を降りた。
彼を先導するように歩いてゆく。
一番奥にある片桐家の墓までが、とてつもなく長く感じられた。
ぴん、と凍てついた空気の中、私たちの足音だけが響いていた。
「片桐家は代々浄土真宗なの。私がなつみ園でキリスト教に出会う前に両親は亡くなったものだから。なんだか変な感じでしょ」
沈黙にたまりかねた私がおどけて振り返ると、彼は微笑んで目を伏せるだけだった。
「…ここよ」
やっとのことで小さな墓石の前にたどり着いた。
泰兄はおもむろにコートを脱いで手に持つと、その前に進み出た。
じっと見守るしかない私。
膝を折ると、彼は手を合わせてこうべを垂れた。
指先をまっすぐに天に向け、微動だにしない。
雪が彼の肩に落ちては消えてゆく。
まるでその音が聞こえてきそうなほどの静寂の中で、彼は手を合わせ続けた。
そんな彼の背中が哀しげだった。
そこに棲む龍の目に、再び悲しみが宿り始めていたことを私は薄々気付いていた。
だけど、気付かないふりをした。
私たちふたりの間に立ちこめるであろう暗雲を予期していたにもかかわらず、目をそむけてしまったの。