ふたり。-Triangle Love の果てに
ここ1週間ほど、誰かに後を付けられている気がする。
気がする、だけで、何の確証もないのだけれど…
でも怖い。
特にYesterdayからの帰り。
人通りのまばらな道をひとりで帰らねばならない。
泰兄のマンションはオートロックだから中に入ってしまえば大丈夫、そう思いたいけれど実際はそうじゃない。
住居スペースに入るにはドアが2重になっていて、はじめの扉は誰もが簡単に出入りできる。
集合ポストもそのエントランス内にあって、郵便配達の人や広告の投函に来た人が自由に行き来できる。
その次のドアを通過するには鍵を使うか、居住者にインターホン越しに解錠してもらわねば入ることができない。
そういう理屈だけど、2番目のドアが開いたすきに誰でもが忍び込むなんて簡単なこと。
昼間は管理人さんが目を光らせているけれど、夜や早朝なんどは造作もない。
誰かにつけられているかもしれない、泰兄に話そうかとも思ったけれど最近の彼は忙しそうで…。
余計な心配はかけたくない。
きっと思い過ごしよ、そう自分に言い聞かせた。
でもすぐにあの恐ろしい事件が起こったの。
いつものようにマンションの玄関で後ろを振り返り、誰もいないことを確認して最初のドアを通り抜けた。
ホールで鍵を取りだし、ロックを解除しようとした時だった。
奥の集合ポストのある区画から、黒い人影が急に飛び出してきた。
声を出す暇もなく、背後から口を塞がれ後方にひきずられる。
何とか抵抗したものの、集合ポストの並ぶ奥へと連れ込まれると髪をつかまれ、壁に思いっきり叩きつけられた。
額を冷たいむきだしののコンクリートに打ち付ける。
その衝撃で目の前がチカチカした。
ふらふらと座り込む私を無理に立たせると、帽子を目深にかぶった男が耳元で言った。
「おまえ、相原の女だろ。調子乗ってんじゃねぇぞ」
そして、私の頬を拳で殴った。
一度きりだったけれど、頭がクラクラするには充分すぎるほどの衝撃だった。
あまりのショックと恐怖で、助けを求める声すら出ない。
しかも帽子のツバの影で男の顔はよくわからない。
殴られた頬に鈍い痛みを感じながら、私は身を固くしていた。