ふたり。-Triangle Love の果てに


助けて…泰兄…


男がとうとう胸元からナイフを取りだした。


冷たく光る刃の尖端。


それが少しずつ私の首筋に。


いや…!助けて…!


かろうじて出たかすれた声。


「…や…めて」


「安心しろ、殺しはしないさ。ちょっと痛い目に遭わせてくれって頼まれただけだ」


頼まれた?


どういうこと?


この男、何者?


ナイフの先が私の首筋に容赦なく近付いてくる。


私は固く目を閉じた。


泰兄…!!


「ちょっとあんた、何やってんだ!」


ちょうどその時、新聞配達の男性の声が響いた。


神さまの声、その時の私にはそう思えた。


襲った男は慌てて逃げていく。


「大丈夫かい?」


座り込んだ私を抱き起こしてくれたその男性。


「血が出てるよ、救急車呼ぶから」


そう言って電話をしようとする彼の手を、私は咄嗟に止めた。


「だ…大丈夫です。救急車は結構です」


「でもさ、血が…せめて警察に届けたほうがいいよ」


「平気です。本当にありがとうございました」


恐怖の中で、私がそう言った理由。


それは泰兄だった。


彼に迷惑をかけたくない。


心配をかけたくない。


AGEHAのオーナーから退き、新しい仕事に取り組んでいる最中に邪魔をしたくない。


足手まといになるようなことをしてはいけない。


そんな想いが、襲われた恐怖よりも何倍も強かった。
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