ふたり。-Triangle Love の果てに
~相原泰輔~
なぜか今夜に限って、マコのドアを開ける音で目が覚めた。
いつもは全く気にならないのに、その日だけは違った。
目を閉じたまま、耳をすます。
きっとシャワーを浴びて、すぐに俺の横に潜り込んでくる。
寝たふりをして脅かしてやろうか、そんな子供じみたことを考えていた。
だが、あいつの様子がおかしかった。
慌てて洗面所に入っていく。
しばらくすると、ガサゴソと何かを紙袋に入れるような音がした。
その慌ただしさがただごととは思えずに、俺はベッドから身体を起こした。
音を立てないように寝室のドアを開ける。
間接照明の淡いぼんやりとした光の中で、マコがキッチンの大きなダストボックスに何かを押し込んでいるのが見えた。
「何をしてる」
俺はその背中に声をかけた。
ビクッと大きく揺れるスウェット姿の細い頼りなげな肩。
「あ…えっと、ゴミをまとめておこうかと思って…」
そう答えるものの、顔をこちらには向けない。
俺は手元の電気のスイッチを入れた。
白い蛍光灯が眩しくて、一瞬顔をしかめる。
「おい」
「何でもないわ。起こしちゃってごめんなさい」
うつむき、髪と手で顔を隠すようにしてマコは横を通り過ぎようとした。
その態度があまりにも不自然だった。
「待て」
そう声をかけ、俺は先ほどまでマコが立っていたキッチンの奥へと入っていく。
ダストボックスの中をのぞくと、無造作にまるめられた紙袋が目に付いた。
ためらうことなく手を伸ばし、中身を取りだした。
「…これはどういうことだ」
「……」
「訊かれたことに答えろ!」
俺はダストボックスを足で蹴り倒した。
ガランガランとアルミ製のそれは、だらしなく転がってゆく。
俺は切り裂かれた彼女の服を握りしめ、詰め寄った。
そこで初めて彼女の顔を見ることになる。
額にはうっすらと血がにじみ、口元にはアザができている。
腹の底から怒りがふつふつと湧き上がってきた。
「誰にやられた?」
マコの両肩を前後に激しく揺さぶった。
「言え!」
彼女の顔に表情はなかった。
視点は定まらず、大きな黒目が揺れているだけだった。