ふたり。-Triangle Love の果てに


ソファーでタオルケットにくるまったマコの前に、ホットブランデーを置いた。


だが彼女は手にとるどころか、目もくれようとはしない。


「飲め。少しは落ち着く」


向かいに座った俺とも目を合わさない。


しらみ始めた空が、カーテン越しに朝の訪れを告げる。


さっきからマコはずっとこの調子だ。


「知らない男に襲われた」とだけ言うと、黙りこくったままうつむいてしまったのだ。


おそらくマコを襲ったやつは、俺に怨みのあるやつだ。


須賀一家か?


それしか思い当たらない。


いや、今は犯人が誰かなんてどうでもいい。


マコを傷付けている根本的な原因は「俺」にあるのだから。


俺の女だと知って、襲ったに違いない。


直人さんのことが脳裏をかすめる。


彼はゆり子さんを想うがため、愛を告げない。


愛するがゆえに、それ以上踏み込まない。


この世界は危険がつきものだ。


周りの人間にどんな危害が加えられるか、わかったもんじゃない。


だから直人さんは愛する人を守るために、あえて「愛していない」フリをする。


なのに俺は…


マコを離したくない一心からそばに置き、こんな目に遭わせてしまった。


こんなことが起きるかもしれないとわかっていたのに…


こいつと離れるなんてできない、その俺の勝手な思いが彼女を辛い目に遭わせてしまった。


その罪悪感から、目の前のこの女を抱きしめてやることができなかった。


怖かっただろ、もう大丈夫だ、そんな言葉すらかけられない。


「おまえは…」


俺は立ち上がり、バルコニーのカーテンを開けた。


そこには、彼女がプランターに植えた紫と白の花が見事に咲き乱れていた。


「おまえはこのことを俺に黙っているつもりだったのか。服を内緒で処分しようとしたのは、そう思ったからだろ」


時折吹く小さな風に応えるように、葉を揺らす花たち。


だが、マコは何も言わない。


夜の仕事をしている以上、危険はつきものだとは前々から思っていたが、辞めろとは言えなかった。


楽しげに仕事の話をするあいつ。


よく親父さんの夢だった「MAKOTO」というカクテルをいつか完成させたい、どういうものがいいか、と相談を受けることもあった。


そんな様子を見ていると、とても言えなかった。


でも今が潮時なのかもしれない。


俺は大きく息をつくと、彼女を振り返って言った。
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