ふたり。-Triangle Love の果てに
「仕事は辞めろ。しばらく外には出さない」
「そんな!」
先ほどまでの放心状態から弾かれたように、マコは俺を見た。
「嫌よ!どうしてそこまでしなきゃいけないの」
「須賀一家の仕業かもしれない。早急に調べさせる。おまえを襲ったやつがわかるまで、この部屋から一歩も出さない」
「ただの通り魔かもしれないじゃない。考え過ぎよ」
ただの?
考えすぎ?
俺は腹立たしさと同時に虚しさを覚えた。
俺がどれほどおまえを想っているのか、なぜわからない?
愛する女をこんな目に遭わせたやつを、ぶっ殺したいくらいなのに。
ただの通り魔だと?
考えすぎだと?
なんだそれ。
口をついて出てきそうな言葉をかろうじて飲み込むと、俺は再び背を向けた。
怒りを圧し殺すように、低い声になる。
「とにかく外には出るな」
「そこまであなたの指図は受けないわ。仕事には行きます」
「ふざけるなっ」
なぜだ、なぜわかってくれない。
おまえをこれ以上危険な目に遭わせたくない。
「くそ!」
窓を殴ると、ドォォォンと低い音が響いた。
「泰兄」
苛立つ俺の背中にそっと抱きついてきたマコが、なだめるように言った。
「心配かけてごめんなさい。私が不注意だったの。変な人がいないかちゃんと確かめるべきだったの」
「いいか、とにかく外には出るな」
「大丈夫よ、気をつけるから。それに…」
「それに、なんだ?」
「私からバーテンダーの仕事を奪わないで。夢だったの、お父さんみたいになるのが。カウンターに立ってるとね、お父さんがそばにいてくれるようで、落ち着くの。だから…」
思わず舌打ちをした。
そのことを出されると、俺は何も言えない。
それに今何を言っても、彼女が聞き届けてくれる様子はなかった。
そういう女だ。