ふたり。-Triangle Love の果てに
~片桐真琴~
その日から勝平さんが私のそばに付いてくれることになった。
いわゆるボディーガード。
一定の距離を保ちながらマンションからシトラスまでの道のりはもちろん、仕事中も外で待っていてくれる。
Yesterdayに向かう時間になると、また私の後をついてきてくれる。
午前4時の仕事終了まで、勝平さんは私をじっと店の外で待ってる。
たった1日で私は申し訳なさに耐えられなくなった。
「あの、やっぱりこうやってもらうのは落ち着かなくて。タクシーで帰りますから、あなたもご自宅に…」とやんわり断る。
でも彼は気をつけをして、きっぱりと言った。
「そうはいきません。泰輔さんからきつく言われてますので」
「でも」
「俺から仕事を取り上げないでください」
AGEHAの仕事があるんじゃないですか、そう思ったけれど言う気にもならなかった。
彼に見守られながら行動すること数日。
泰兄に不満をもらすことなんてできなかった。
以前に増して彼からはピリピリした雰囲気が伝わってくる。
原因は何?
新しく任された「仕事」?
それとも私?
『おまえ、相原の女だろ。調子に乗ってんじゃねぇぞ。ちょっと痛い目に遭わせてやれって頼まれたんだよ』
あの野球帽を目深にかぶった男の言葉が気になっていた。
だけど、そのことを泰兄には話していない。
ただの通り魔だ、って言ったのも心配をかけたくなかったから。
だって今も彼は犯人捜しに躍起になっている。
私はそんなこと望んでない。
ボディーガード、なんてのもいらない。
ただあの時、傷付いた私をすぐに抱きしめて「大丈夫だ、俺がいる」、そう言ってくれさえすればよかったのに。
それらしい言葉は一言も彼から発せられることはなかった。
一緒にいるのがつらくて、仕事が休みなのにあえて私は彼を家に残して外出した。
でも勝平さんは私に付いてくる。
彼が見ていると思うと、ショッピングも楽しくない。
買いたいものが買えない。
たとえば下着とか…
ある意味監視下におかれていて、行動を逐一泰兄に報告されているような気分。
私のストレスも限界に近付いていた。
とりあえず見られてもさし支えない物を買うと、不機嫌さを全身に漂わせながら街の真ん中を流れる大きな河の土手に出た。
勝平さんの足音が数メートル後方から聞こえる。
ひとりでは行動しない、そう泰兄と約束したけれど、少しぐらい融通がきかないのかしらこの人は、と腹立たしく思った。
泰兄に忠実なまるで犬みたいな人、そう思った。
毎日守ってもらってるくせに何てことを私は…
そのことはよくわかっていたけれど、もう限界だった。