ふたり。-Triangle Love の果てに


「あの!」


突然振り返った私に、驚いたように歩みを止める勝平さん。


「もう結構ですから。私を襲った犯人だって、そこまで執拗に狙わないと思います」


「どうしてそう思うんですか」


「だって…」


痛い目に遭わせるだけだってその男が言ったから…


でもこのことをこの場で言えば、きっと泰兄の耳にも入る。


「ただの通り魔だと思うから」ごまかすように答えた。


「泰輔さんから、絶対にあなたから目を離すなと言われています」


「だけど私だってひとりで買い物もしたい、本屋で立ち読みだってしたい!だけどあなたが見てると思うと…」


「犯人がわかるまでの辛抱ですよ」


「もういいんです、探さなくても。私だって子どもじゃないんです。自分の身は自分で守れるようにしますし」


「泰輔さんは真琴さんのことをそれは心配されています。その泰輔さんの気持ちをどうか…」


カチン…ときた。


「泰輔さん、泰輔さんって…」


私は勝平さんに向かってツカツカと歩き出した。


彼の前まで来ると、まだあどけなさが残る顔をにらみ付けるように見上げた。


「じゃあ何ですか、彼が今ここで河に飛び込めって命令したら、あなたは飛び込むの!?」


「はい、泰輔さんのおっしゃることなら」


よどみなく答えるところが、ますます腹立たしい。


「明日の朝まで、この土手を走ってろと言われたら、走り続けるの!?」


バカバカしいことを言っているのはわかっていたけれど、次から次へと泰兄への不満が噴き出してきて止められなかった。


私を愛してるなら、ちゃんとあなたの口からそう言って!


私が邪魔なら、はっきりそう言って!


一体私は泰兄の何なの!


そんな不満を、勝平さんに形を変えてぶつけていた。


「はい、走ります。何日でも」


「じゃあ、死ねと言われたら死ぬの!?」


「はい、泰輔さんがそう望むなら」


その間髪入れない返答に、私は力が抜けて笑いが込みあげてきた。


「バカじゃないの」


「そう思われても仕方ありません。泰輔さんの命令なら俺はどんなことでもします。でも」


私にここまで言われてもなお彼は微笑んでいた。


けれど力強く私に言ったの。


「泰輔さんは、意味もなくそんなことをおっしゃる方ではありません」と。

< 271 / 411 >

この作品をシェア

pagetop