ふたり。-Triangle Love の果てに
「あの!」
突然振り返った私に、驚いたように歩みを止める勝平さん。
「もう結構ですから。私を襲った犯人だって、そこまで執拗に狙わないと思います」
「どうしてそう思うんですか」
「だって…」
痛い目に遭わせるだけだってその男が言ったから…
でもこのことをこの場で言えば、きっと泰兄の耳にも入る。
「ただの通り魔だと思うから」ごまかすように答えた。
「泰輔さんから、絶対にあなたから目を離すなと言われています」
「だけど私だってひとりで買い物もしたい、本屋で立ち読みだってしたい!だけどあなたが見てると思うと…」
「犯人がわかるまでの辛抱ですよ」
「もういいんです、探さなくても。私だって子どもじゃないんです。自分の身は自分で守れるようにしますし」
「泰輔さんは真琴さんのことをそれは心配されています。その泰輔さんの気持ちをどうか…」
カチン…ときた。
「泰輔さん、泰輔さんって…」
私は勝平さんに向かってツカツカと歩き出した。
彼の前まで来ると、まだあどけなさが残る顔をにらみ付けるように見上げた。
「じゃあ何ですか、彼が今ここで河に飛び込めって命令したら、あなたは飛び込むの!?」
「はい、泰輔さんのおっしゃることなら」
よどみなく答えるところが、ますます腹立たしい。
「明日の朝まで、この土手を走ってろと言われたら、走り続けるの!?」
バカバカしいことを言っているのはわかっていたけれど、次から次へと泰兄への不満が噴き出してきて止められなかった。
私を愛してるなら、ちゃんとあなたの口からそう言って!
私が邪魔なら、はっきりそう言って!
一体私は泰兄の何なの!
そんな不満を、勝平さんに形を変えてぶつけていた。
「はい、走ります。何日でも」
「じゃあ、死ねと言われたら死ぬの!?」
「はい、泰輔さんがそう望むなら」
その間髪入れない返答に、私は力が抜けて笑いが込みあげてきた。
「バカじゃないの」
「そう思われても仕方ありません。泰輔さんの命令なら俺はどんなことでもします。でも」
私にここまで言われてもなお彼は微笑んでいた。
けれど力強く私に言ったの。
「泰輔さんは、意味もなくそんなことをおっしゃる方ではありません」と。