ふたり。-Triangle Love の果てに
~相原泰輔~
それは突然だった。
俺とマコの間にできてしまった溝をますます深くするような出来事が起こったのは。
早朝の1本の電話。
「…ああ、くそっ!誰だ、こんな朝早くに」
舌打ちをしながらディスプレイに表示された名前を見て、眠気が吹き飛んだ。
次の瞬間には通話ボタンを押し、自分でも驚くほど歯切れ良く第一声を発していた。
「おはようございます、姐さん」
『おはよう、泰輔。寝てた?』
「まさか」
俺の嘘に鼻で笑ったルリ姐さんは「突然で悪いんだけど」と前置きをしてから話し出した。
その内容を聞きながら電話を肩と耳ではさみ、俺はベッドを抜け出しカッターシャツを着る。
『…というわけなんだけど、お願いできるかしら』
「もちろんです」
マコが眠たそうに目をこすりながら何事かと身体を起こした。
俺はそれを手で制して、寝室を出る。
「では後ほど」
電話を切ってネクタイを締めていると、マコがまだ少し湿っている髪をかきあげながら部屋から出てきた。
「寝てろよ」
「いいの、目が覚めちゃったから。それより、仕事?」
「ああ」
「ずいぶん急なのね」
「まあな」
洗面台に向かう俺の後をマコはついてくる。
「何時くらいに帰って来れそう?」
「わからない」
鏡越しに見るその顔は、何かまだ物言いたげだったがあえて素知らぬ顔をして洗面をすませた。
朝のこの時間帯は、どの道もひどい渋滞だ。
俺はコツコツとハンドルを指で叩きながら、時計を気にしていた。
9時には空港に着いていなければならない。
ルリ姐さんの歳の離れた妹、台湾に住むマリアさんが来日する。
まだ二十歳そこそこらしい。
迎えに行く筈だった鶴崎組の幹部組員が昨夜警察にパクられたということで、彼女の相手をするにふさわしい人材がいなくなったそうだ。
そこで白羽の矢が立ったのが、俺。
ルリ姐さん曰く、「あまり下っ端の若い衆では、あのマリアのわがままにはついていけないと思うのよ」ということらしい。
まぁ、姐さんの妹だもんな、気難しいのは当然だろうなと内心笑いながら、この件を承諾した。
「くそっ、この分だとギリギリだな」
前の車がタラタラしていて一向に右折しないので、俺は思いっきりクラクションを鳴らしてやった。