ふたり。-Triangle Love の果てに
空港のロビーに駆け込むと、そこには大きなトランクを持った人で溢れかえっていた。
久々に全力で走ったせいで、すっかり息の上がってしまった俺。
額に滲む汗をそのままに、辺りを見回した。
こんな時に限って予定よりも早く飛行機も到着している。
きっとマリアさんは待たされたことでご立腹だろう。
ルリ姐さんから聞いていたマリアさんの特徴、それは「目も醒めるような美人」というそれだけ。
電話で姐さんは「私に似てあの子もとびっきり美人だから、どんな人混みの中でもすぐにわかるわよ」とあっけらかんと言ってのけたのだ。
美人、ね…
呆れたように呟いた瞬間、後ろから肩をトントンと叩かれた。
「あなたでしょ、相原さんって」
振り返ると、恐ろしくルリ姐さんに似たショートカットの女が立っていた。
いや、姐さんよりも少し彫りが深く目鼻立ちがはっきりとしている。
確かに美人だ。
「姉から連絡があったでしょ、あたしを迎えに来るようにって。どれだけ待たせたら気が済むのよ」
そしてルリ姐さんに負けないほど、気が強い。
「申し訳ありません、大変お待たせしました」
「言い訳がしたいなら聞いてあげるわよ」
「滅相もない、遅れたのは私の完全なミスですから」
「そう。じゃ、さっさと行きましょ。あ、それと荷物はあっちに置いてあるから」
「はい」
苦笑する俺に背を向けて、彼女は高いヒールを高らかに鳴らしながら歩き始めた。
すれ違う者が振り返るほどの、美貌とプロポーション。
あれでもう少し性格が穏やかだったらな、と思った。
真っ赤なトランクを車に詰め込むと、俺は後部座席のドアを開けた。
そうしてもらうのが当然であるかのように、彼女は乗り込む。
「ルリ姐さんに一度連絡を入れます」
待たされたことが余程気に入らなかったのか、腕組みをしたまま膨れっ面で何も答えない。
やれやれ。
とりあえず姐さんに電話をして、今から鶴崎組に直行する旨を伝えた。
『悪いわね、泰輔。ちょっとマリアに代わってくれる?』
そう言われたので携帯を後部座席の姫君に差しだした。
「姐さんがあなたとお話をされたいそうですよ」
仏頂面でそれを耳に当てると、彼女はいきなり俺への不満をぶちまけ始めた。
「ちょっと、あたし20分も待たされたのよ!こんなこと、生まれて初めてだわ、ほんっとに腹が立つ!」
その文句を背中で聞きながら、俺は車を発進させた。