ふたり。-Triangle Love の果てに
しばらくして気がすんだのだろう、助手席のシートにポンッと携帯を投げてきた。
「姉がさっき電話で、あなたはとってもデキる男だって言ってたけど?」
「それは恐縮です」
「遅刻したくせにね」
「申し訳ありません」
「こんな生意気なガキにこき使われて、面倒くさいって思ってるでしょ」
「とんでもない。ルリ姐さんの大切な方です。こうやって運転手をさせていただけるだけで光栄です」
歯の浮くようなセリフを俺は並べた。
「嘘つき」
ルームミラーを通して目が合う。
少しひねくれたような目つきで、決して自らは瞳を反らそうとしない。
これはまた随分気の強いお嬢さまだ。
「はっきり言いなさいよ、こんなやつの相手なんてまっぴらだって」
「マリアさん」
「命令よ、正直に言いなさい」
…ったく、マコ以上にガキだな。
「では遠慮なく…」
俺は咳払いを一つすると、車を路肩に停めてから後部座席を振り返った。
「ルリ姐さんの妹だ何だか知らないが、年上に対する礼儀がなってない。こんな変にプライドだけが高いガキの世話をするなんて、俺のボランティア精神も大したものだ」
「なっ…」
みるみるうちに彼女の顔が真っ赤になったかと思うと、次は青くなってわなわなと震えだした。
「なんですって!?」
「聞こえなかったか、おまえを相手にするのが面倒だと言ってるんだ」
「相原、といったわね。そんなこと言って、どうなるかわかってるの?」
「あんたが正直に言えと命令したんだろ。俺はそれに従ったまでだ」
命令、という言葉にわざと語気を強める。
低い声で唸ると、マリアはシートベルトを外し、勢いよくドアを開けて車を降りた。
「おいおい、待てよ」
予想外、でもなかったが、俺も正直一瞬焦った。
彼女を追いかけ、車を降りた。
ツカツカとハンドバックだけを持って歩いてゆく。
道もわからないくせに。