ふたり。-Triangle Love の果てに
明くる日も明くる日も、俺はルリ姐さんの呼び出しをくらっていた。
正確には「マリア」からの呼び出しだったが。
「ごめんなさいね、泰輔。マリアが、どうしても付ける人間はあなたじゃなきゃダメだって言うのよ」
「これはまた名誉なご指名ですね」
マリアが日本にいる間、俺に彼女のボディーガードを兼ねて街を案内してほしいというのだ。
「お願いできるかしら」
他ならぬルリ姐さんの頼みだ。
「もちろんです」
「直人には私から連絡を入れておくわ。しばらく泰輔を貸してちょうだいってね」
鶴崎家の玄関口で待っていると、バックパックにスニーカーといった出で立ちのマリアが姿を現した。
ハイキングにでも行くつもりか?
そう突っ込みたくなるのを堪えながら、車に案内する。
「サンキュー」と言いながら嬉しそうに後部座席に乗り込むマリア。
礼を言うだけマシか。
アクセルを踏みながら、俺は訊いた。
「今日はどちらに?」
「食べ歩きよ」
食べ歩き?
だからそんな気合いの入った格好なのか。
「通りで。たくさん歩くおつもりなんですね」
マリアは何のことかと首を傾げたが、すぐに自分の服装のことを言われてるのだとわかり大笑いした。
「あはは、そうよ!いっぱい歩くわ!泰輔っておもしろい!」
ハタチそこそこの女はこういうものなんだろうな。
ふと、マコを想った。
あいつは同じハタチでも、こんなにはしゃぐタイプではなかっただろうに。
俺からしてみたらまだまだ世間知らずなところはあるが、少なくともマリアをはじめ多くの同年代の女よりは世の中の不条理や悲しみを知っている。
それがマコの芯の強さの源でもあるし、凛としたぶれない美しさでもある。
そんな女を俺は心から愛している。
愛しているのに…
「ね、何を考えてるのよ」
助手席のヘッドレストに両腕を絡ませ、マリアが俺をのぞき込んできた。
「この辺りにコインパーキングがあったかな、と思いまして」
俺はそうごまかすと、ナビに目をやった。