ふたり。-Triangle Love の果てに
本通りのメイン筋を何本か横に逸れた通りが、いわゆる下町の商店街の様相を呈している。
今まで特に気にして立ち寄ったことはなかったが、マリアの持っていたガイドブックを見てこんなものが有名だったのか、と初めて知る。
マコもきっと知らないだろうな。
いつか連れてきてやろう…
やはり思考の行く付く先はあいつのことだ。
相原泰輔ともあろう者が。
我ながら情けない。
「泰輔ぇ!」
ったく、そんなでかい声で呼ぶなよ。
「次、行こ!次!」
人目を気にせず、マリアは俺の腕に自分のものを絡ませてきた。
「マリアさん」
立ち止まる俺に、彼女は「どうしたの」と言わんばかりの表情を見せる。
「よくありません、こういうことは」
そっと彼女の手を外して、俺は言った。
「誤解を招きます」
「誤解?他人に誤解されたらあたしが困るから?それとも泰輔が困るから?」
「あなたは鶴崎家の一員です。誰が見ているかわかりません。変な噂が立てばルリ姐さんも気をもまれることでしょう」
「そう、ね」
一瞬翳りを見せたマリアだったが、すぐに「ほら、次行きましょ」と明るく笑った。
食べ歩きやショッピング、ゲームセンターを散々楽しんだマリア。
「そろそろお送りします」と言うと、「まだいいじゃない」と子どものように頬を膨らませた。
「今夜は鶴崎家で食事会だとうかがっています。6時までには帰るようにとルリ姐さんから言われていますので」
「あーあ、つまんないわね」
後部座席のドアを開けるも、彼女は強ばった顔つきでそれを閉めた。
「どうなさったんです」
「ね、泰輔。助手席に乗っちゃだめ?」
「それは…」
またしてもマコの顔が浮かんだ。
この車の助手席はあいつの指定席だ。
「申し訳ありません。マリアさんにはこちらに乗っていただきます」
俺は再び後部座席のドアを開けた。
「どうして」
挑戦的な目で俺を見る。
「誤解を生むから?」
俺が答えるよりも先にマリアが言った。
「その通りです」
「つまり、この助手席に乗れるのは泰輔の奥さんか、もしくは恋人ってこと?」
「そういうことになりますね」
「やっぱりね。姉が言ってたもの。男の車で軽々しく隣に座るんじゃないって。相手にも迷惑がかかるし、あたし自身にも傷がつくからって」
俺は小さく頷いた。
「でもそんなこと言ってるの、ヤクザだけよ。みんなそんなの関係なしに男友達の横に座ってるわ」
「そのようですね」
「こっちに乗ってもいいでしょ」
マリアは後部座席のドアをまた閉め、助手席のドアに手をかけようとしたが、それを俺は制した。